オーバーウォッチ 2

INSIDE OVERWATCH:バランスデザインとエクスペリメンタルカード

INSIDE OVERWATCH:バランスデザインとエクスペリメンタルカード
「バランスが完璧だからといって、ゲームの楽しさが増すわけではありません。まずは楽しいものを作ってから、バランスを調整する。逆の順番でやるのは難しいことの方が多いんです」 - ジョシュ・ノー(「オーバーウォッチ」ゲームデザイナー)

バランスを保つことは果てしなく険しい道です。どんなオムニック僧もそう教えてくれるでしょう。幸い、「オーバーウォッチ」開発チームには、どのキャラクターも強く、それでいて圧倒するわけでもないバランスを探ることに専念しているデザイナーのコンビが所属しています。20年以上Blizzardに務めるベテランスタッフのジェフ・グッドマンは、トップ500にランクインする実力派プレイヤーでもあるジョシュ・ノーとともに変化し続ける「オーバーウォッチ」のバランスを保っています。 

先日、数名のオーバーウォッチ リーグの選手、配信者、コンテンツクリエイターがジェフとジョシュとタッグを組む機会がありました。彼らは、「オーバーウォッチ」コミュニティの中で最も積極的に活動しているメンバーを代表して、自分たちで考えたゲーム調整を提案するという課題に挑みました。つまり、ジョシュとジェフがやっているデザイナーの仕事に挑戦するわけです。目標は、一見不可能な「完璧なゲームバランス」を作ること。それが終わったら、オーバーウォッチ リーグの「FLASH OPS」のエクスペリメンタル・カード・トーナメントで実際に考えた調整をテストしなければなりません。簡単そうでしょう?  

今回は忙しい2人に時間をいただき、エクスペリメンタルができるまでの過程と、開発秘話についてインタビューを行いました。どうやら、自分たちの仕事に挑んだメンバーに謝りたいこともあるそうです。 


ジョシュ:私は2012年にBlizzardに入社しました。最初は「World of Warcraft」の戦闘とレイドコンテンツのQAアナリストでした。その後、ヒットの検出とヒーローアビリティの機能チェックをする人員が必要になったため、2013年に「オーバーウォッチ」チームに移ることになりました。当時のチームリーダーが前に「Project Titan」(編集者注:「オーバーウォッチ」開発チームが以前担当していたMMORPGプロジェクト)に所属していて、私が高ランク帯でFPSやPvPをプレイしていたことを知っていたため推薦してくれたんです。

「オーバーウォッチ」のヒーローQAサブチームで働いている間に、GM兼トップ500プレイヤーの視点から書いたフィードバックや分析のメールを大量にデザインチームに送りました。あまりにも多すぎてうんざりしたからか、2018年にゲームデザイナーとしてヒーローデザインに挑戦する機会をいただきました。

ジェフ:私は元々テクニカルサポート担当でした。2000年の12月に入社して、電話受付から始めました。たしか2002年のどこかで「World of Warcraft」チームに入って、ダンジョンとレイドのスポーンとエンカウントデザインを担当するようになりました。「World of Warcraft」の仕事ももちろん楽しかったんですが、シューティングゲームを開発中と聞いて、どうしてもそのチームに入りたいと思ったんです。なので、開発中止になるまでは「Titan」を担当して、そのあとすぐに「オーバーウォッチ」に移ってヒーローデザイナーになりました。

ゲームに関して自慢できるようなことかは分かりませんが、強いて言うなら色んなゲームをプレイするということでしょうか。私のSteamライブラリにはゲームが600本くらい登録されていますが、全部ちゃんとプレイしています。(編集者注:すごい!

ジョシュ:哲学というほどのことではありませんが、大体のゲームに当てはまるような指針ならありますね。バランスが完璧だからといって、ゲームの楽しさが増すわけではありません。まずは楽しいものを作ってから、バランスを調整する。逆の順番でやるのは難しいことの方が多いんです。それに「バランスが取れている」という感覚は、実際の数値上のバランスよりもゲームに影響を与えることがあります。これはプレイヤー間の社会的な圧力が無視できないような対戦型ゲームでは特に顕著です。なので、分析を行う時は自分にも偏見があるのを忘れないこと、そしてゲームプレイとプレイヤーの体験を第一に考えることを意識しています。

ジェフ:ジョシュの言ったとおりです。ひとつ付け加えるとすれば、デザインに込められたイメージはゲームプレイと同様に強調すべきである、でしょうか。特にヒーローに関しては、ゲームプレイに人格やキャラクター性が現れていることがとても大切です。だからウィドウメイカーはゆっくりと計画的に動きますが、トレーサーは素早くて活発だし、ジャンクラットはめちゃくちゃな行動をします。

ジョシュ:もちろん観戦するつもりです。バランス調整によってどんなチーム構成や戦略が採用されるかにはとても興味があります。最初に変更点一覧を見たとき、パネリストたちが思ったよりも堅実な数値調整をしていてびっくりしました。大胆な変更には踏み切らなかったみたいですね。5%のダメージ減少とか、アーマー15増加とか、ジャンクラットの地雷ダメージ5増加とか、調整が小さすぎるかもしれないと思った点が多くありました。あのくらいの数値だと、ゲーム内で変わったと実感するのが難しいんです。たまにかなり違いを感じるものもありますが。

ジェフ:私ももちろん観戦しますよ!採用されそうな構成をいくつか予想していますが、実際にどうなるかが楽しみです。

ジェフ:僕の仕事はほぼ話を聞いているだけでしたが、とても楽しかったです。たまには静かに他の人を観察するのもいいものですね。Blizzard内でも前例のない試みだと思いますし、エクスペリメンタルを使ってこういうことに挑戦できたのはとても良かったと思います!調整の細かい数値については、Discordでパネリストに再確認して、全員が満足しているかを確認しました。ただ、ひとつ申し訳ないと思っていることがあります。今回の試みでは、パネリストに対する批判があるかもしれないということをあまり考慮していませんでした。私は仕事としてやってきたので、批判的なフィードバックを受けることには慣れっこです。でも初めての人に「オーバーウォッチ」のようなゲームのバランス調整という大役を任せている以上、彼らにも厳しい目が向けられてしまうことは避けられません。パネリストが変更点に対する厳しいフィードバックを読んで、圧倒されたり打ちのめされたりしないことを願うばかりです。

ジョシュ:内部で確認のためにプレイテストをしたんですが、その時真っ先に試したのが「ヘリックス・ロケット」とトールビョーンの「タレット」のチャージがそれぞれ2つになる変更点ですね。強そうに聞こえますが、実際のゲーム環境ではどうなるかわからなかったので。その時にサイズが縮んだレッキング・ボールが近くを転がっていったんですが、本当に小さかったですね!とても楽しかったです。

ジェフ:ぜひ試しにプレイしてもらいたい面白い変更ばかりです。個人的に気になっているものは、バティストの「イモータリティ・フィールド」の最小ライフの閾値1への変更、エコーの「コピー」の仕様変更、ウィドウメイカーの「ヴェノム・マイン」大幅強化ですね。

ジョシュ:メインで使っているヒーローはいません。いつもチームの足りないロールを担当していたので。なるべく、まんべんなくプレイするようにしてます。それに、これだけヒーローがいるわけですから、ひとつに絞り込むのは難しいです。いくつか候補を挙げるなら、ドゥームフィストの「ロケット・パンチ」とトレーサーの「ブリンク」を垂直に出せるようにする、ゼニヤッタに空中に浮けるような新しいパッシブアビリティをつける、マーシーの「ガーディアン・エンジェル」の効果を敵にも適用する、ですかね。

ジェフ:パッと思いついたのは、ウィドウメイカーかレッキング・ボール、もしくは両者のグラップルを連続で複数回使えるようにすることです。スパイダーマンみたいにグラップルしながら進んでいくのはとても楽しそうだと思いますが、おそらくゲームバランスは大きく崩れるでしょう。

ジョシュ:デザイナーにとっては、どんな出どころのフィードバックも貴重です。特に「こういう問題が発生している。なぜ問題だと思うかというと、こうだ」と症状が詳しく書かれているものはとてもありがたいです。改善案が書いてある場合もありますが、ゲームにはプレイヤーの知らない内部的な判断や優先事項が大量にあるため、どうしてもその通りにはできないことが多いんです。

ジェフ:色々なところからフィードバックをかき集めていますよ!

ジェフ:今回の変更点は1日くらいで全部実装できたと思います。そのあとは、プレイテストで実際のプレイ感の確認と、不具合のチェックの並行作業。それが終わってからいつもどおりフィードバックセッションをしたんですが、普段と違って変更点を繰り返し検討しなかったのは新鮮でしたね。いつもの作業では、変更によって本番の環境で試す前の検討期間が違います。少し前のモイラの「フェード」で行った変更なんかは、長めの検討期間を経ても実装すべきかわからない変更点でした。コミュニティにフィードバックを仰げるような状態になってはいたので、エクスペリメンタルで公開して、みなさんに意見をもらいました。もっと単純な変更点の場合は、実装してプレイテストでプレイ感を確かめるという工程だけなので、期間は1週間程度です。

ジョシュ:開発中は、アーティストからグラフィックが届いていないので、デザイナーが仮のエフェクトを入れてイメージが伝わるようにしていることがよくあります。中でもハンゾーの「龍撃波」の仮グラフィックは、デバッグ用の丸い物体を芋虫みたいにつなげたものだったんですが、どっちが頭か分かるようにと目玉がつけられてるのを見たときは思わず笑ってしまいましたね。それから、ルシオの「ジャジー」というスキンは、通常スキンとは違う曲が流れるんですが、開発当初はまだその曲が完成していなかったので、スピードアップの曲に切り替わるたびにスコット・ロウラーが「ジャジーなスピードブースト、ゴーゴーゴー」って言っている声が代わりに流れてました。最高に面白かったので、アンロック不可能なボイス・ラインとしてこっそり実装したかったくらいですね。(編集者注:ぜひとも実装していただきたい!

ジェフ:開発中は本当に色々ありましたので、どれを話そうか悩みますね。今パッと思い浮かんだのは、現在のルシオのアルティメットは3種類も作ってようやく今の形に落ち着いたって話でしょうか。最初に作ったのはいわゆる時間停止能力、厳密には「時間の流れをものすごく遅くする」もので、マップ上の全員の移動速度を通常の5%くらいまで下げる能力でした。たしか「テンポ・シフト」と呼んでいましたね。空中の投射物のスピードも落とせる上、ルシオ本人はいつもどおり滑り回ることができます。その代わりに、この状態では敵にダメージを与えられない、というものでした。発動中に「サウンドウェーブ」で敵や投射物(当時は投射物を跳ね返すことができた)を吹き飛ばしてチームメンバーを回復し、スローの効果が終わった時にチームが有利になるように状況を整えておく、という使い方を想定していました。今までにない技で、面白い場面もいくつか生まれましたが、アルティメットとはいえ移動速度を下げられてしまうことが不評でボツになりました。

次に試したのは、自分のアルティメットゲージを消費して仲間のアルティメットゲージを増やす技です。これは何パターンか試して、ものすごく強力な技だったんですが、使われた側が気づかないという点が問題でした。こういうものをデザインするとき、効果に気づかないというのは致命的です。そのあとようやく、チームを大きなバーストダメージから守れる「サウンド・バリア」試してみたんです。


ジェフとジョシュ、そしてエクスペリメンタルのパッチノートにご協力いただいたみなさんに、マクリーを見習って脱帽しましょう!残念ながら本記事の公開時点ではすでにゲーム内でプレイすることはできませんが、パッチノートはこちらでお読みいただきます。 

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