オーバーウォッチ 2

ジェフ・カプランとマイケル・ハイバーグ、「エクスペリメンタル」「トリプル・ダメージ」「アイスクリーム屋の考え方」について語る

ジェフ・カプランとマイケル・ハイバーグ、「エクスペリメンタル」「トリプル・ダメージ」「アイスクリーム屋の考え方」について語る

ジェフ・カプランとマイケル・ハイバーグがアイスクリームの話で盛り上がっています。

「一番人気はチョコレート味だと思っていたよ」と、「オーバーウォッチ」のゲームディレクターを務めるカプランが言います。

「統計としてはバニラのほうが人気だね」と、プリンシパル・ゲームデザイナーのハイバーグがかぶりを振ります。

「へえ、統計的にはバニラが人気か。好みのフレーバーは人それぞれ、『オーバーウォッチ』のプレイヤーにロールの好みがあるのと同じだね」

というわけで、ここからは「トリプル・ダメージ」(1タンク、3ダメージ、2サポートのチーム構成)誕生の経緯や、それをテストする場となる「オーバーウォッチ」の新たなエクスペリメンタル・モードについて、インタビュー形式で2人の声をお届けします。今回の変更は大規模なものになります。どういった方向に転ぶか、開発チームにもはっきりとは見通せていません。ですがそこがエクスペリメンタル・モードの魅力でもあります。今後はプラットフォームの垣根を超えて、また、現行のPTRようにクライアントを切り替えることなく、開発チームの大胆なアイデアを皆さんにテストしてもらえるようになります。

エクスペリメンタル・モードの全容と、トリプル・ダメージがゲームに及ぼす影響について、カプランとハイバーグの考えをご覧ください。


エクスペリメンタル・モードを新たに作ろうと思ったきっかけは?

カプラン:基本的に、バランスを調整するときは、まずPTR(公開テストサーバー)で試します。それと並行して、SonyやMicrosoft、それに今は任天堂もですが、ゲーム機ごとに審査を通さなくてはいけません。審査には大体1週間ぐらいかかりますかね。それとは別にテストや実装がありますから、場合によっては長引きます。マクリーの銃のダメージを1ポイント変えるだけであっても、思いのほか時間がかかります。

次に、バランス調整の観点から、そうした変更を実際に試して様子を見ます。次の段階に進むのはある程度経ってからですね。なので、スケジュール的にほぼ2カ月に1回のペースでバランス調整をやる形になりました。プロセスの性質上、どうしてもそうなるわけです。

開発チームのデザイナーに「これがあったらいいと思う機能のトップ10は?」と聞けば、「思ったままに、一瞬で変更できる機能がほしい。そうすればバランス調整のリクエストにももっと柔軟に応えられるから」という意見が必ず出てくるはずです。

この機能を作るため実際に動きだしたのはいつですか?

カプラン:エクスペリメンタルの構想には、特に2人のエンジニアが強い意欲を見せました。デレク・マルダーとフィル・オーウィグ。デレクは前線で活躍するゲームプレイエンジニアで、フィルは縁の下でプロジェクトを支えるネットワークエンジニアです。最初にデレクがアイデアを口にしたんです。誰でもプレイできるPTRがゲーム内にあったらどうだろう。

チームの誰もが「おお!」と思いました。実現すれば、PTRのために別のクライアントをダウンロードしてもらう必要はなくなるし、アカウントのレベルアップやトレジャー・ボックスの獲得といった現行の報酬システムも機能しますから。それに、今まで蚊帳の外だったコンソール版プレイヤーもテストに参加できるようなります。

開発を進める決断も、迷いなく下すことができました。誰かがアイデアを出して、みんなが「いいね!絶対やったほうがいいよ!」となることは滅多にありません。でもエクスペリメンタル・モードに関しては、まさにそういった反応でした。

最初にテストする変更はトリプル・ダメージ(1タンク、3ダメージ、2サポートのチーム構成)です。このアイデアはどこから生まれたんですか?

ハイバーグ:ロールキューのリリース時には、チーム構成を2ダメージ、2サポート、2タンクと設定しましたが、タンクやサポートと比較して、ダメージを選択するプレイヤーが非常に多いんです。そうなると必然的に待ち時間も伸びます。そこで考えたのが、実際にプレイヤーが選んでいるロールの比率にチーム構成を近づけたらどうなるんだろう、ということでした。これがうまくいけば、待ち時間が減って、その分だけプレイできる時間が増えます。となれば、試さないわけにはいきません。

内部テストはどうでしたか?面白い結果は見られましたか?

ハイバーグ:ダメージが増えてタンクが減ると、キル数が目に見えて変わってきます。タンクへの圧力も強まるし、タンクを生存させるために頑張る人たちの行動も変わってきます。

カプラン:ダメージが3人になると、現行のゲームではまずお目にかからないチームを見かけるようになりました。ゲンジやトレーサーといったフランカー(機動力を活かして不意打ちを狙うタイプ)2人と、それを支援する攻撃的なタンクという構成や、ウィドウメイカーやハンゾーなどのスナイパー2人を軸にした、守り重視のプレイスタイルもあったり。スナイパー2人にフランカー1人といった構成もあり得るかもしれません。要はゲームが根本から変わってきます。より混沌としたせめぎ合いが生まれ、マッチの展開も目まぐるしいものになりました。

開発チームでも意見が分かれました。ひどく嫌がるか、すごく面白がるか、大体はそのどちらかに分かれました。始めは楽観的な声が多かったんです。「いいんじゃない、これはなかなか面白くなるかもね」みたいな感じで。でもしばらくすると、激しく反対する人も出てきて、「さすがにゲーム性が変わりすぎる。タンクにかかるプレッシャーが強すぎるし、やるかやられるかで殺伐としすぎる」という意見もありました。

うまくバランスをとりながら、いろいろ試してちょうどいい落としどころを探っています。たとえば、殺伐としすぎるという懸念に関しては、マッチに参加するタンクの数が影響するのは当然でしょう。でもそれについては、シンプルに全員のダメージやHPを調整するというやり方もあるはずです。

具体的にどんな変更を検討しましたか?

カプラン:一番悩んだのは、ロードホッグ、D.Va、ザリアをどうするのか、という点です。

タンクを作った当初は、どのキャラもオフタンク(攻撃的なタンク)という位置付けはしていませんでした。実際、タンク1名構成でチームが組まれることを想定していました。初期の「オーバーウォッチ」は、だいたいそうしたチーム構成でプレイされていました。ロールキュー以前にクイック・プレイをプレイしたことがある方なら、タンクが1人いることがどれだけ贅沢なことだったかもご存じだと思います。

ですが、プレイヤーが2-2-2の構成に慣れるにつれ、ザリア、D.Va、ロードホッグはもっぱらオフタンクとして見なされるようになりました。今回の実験の一環として、この3人にはメインタンクを張れるような調整を行いました。たとえばロードホッグは、「テイク・ア・ブリーザー」を発動させると、周りにガス状の煙が出て、範囲内の全員がダメージを軽減できるほか、自身のライフも回復するようなりました。

それらの変更は実際にエクスペリメンタル・モードでも試せますか?ロールの人数変更だけでなく、ロスター全体にも見直しを?

カプラン:全面的に調整するヒーローもいますが、あくまでもトリプル・ダメージに関係する部分だけを変更します。もし現行のまま2-2-2構成で行くということになれば、この変更は反故にします。

ハイバーグ:調整後のロードホッグは、2-2-2構成だと“ぶっ壊れ”性能なので。

カプラン:見かけないマッチはないぐらいの勢いでしょうね。

トリプル・ダメージに切り替わることで、一般のプレイヤーにはどういった影響が見込まれるでしょうか?

カプラン:私たちにとっても未知の領域ですが、PTRに出すものは基本的にこちらも自信をもっているので、ライブサーバーにもそのまま実装する想定でいます。ですが、エクスペリメンタル・モードは、5000万人近くの親しい友人に実験を手伝ってもらうようなものです。

その中でも2つの点に注目しています。1つは、プレイヤーのフィードバックと率直な感想。これらは私たちにとってものすごく価値があります。2つ目は、待ち時間への影響です。今回の目的はメタに手を加えることではなく、あくまでも待ち時間の短縮です。

トリプル・ダメージの次はどんな変更を考えていますか?

カプラン:トリプル・ダメージの次は、エクスペリメンタルでバランスの変更に力を入れることになるでしょう。少なくとも、次にまた面白い実験を思いつくまでは、そうした変更が順当です。

タンクよりもダメージにプレイヤーが集中してしまう理由は何だと思いますか?

カプラン:複数の要因があると考えています。タンクよりもダメージ・ヒーローの方が多いというのも、単純ではありますが理由のひとつでしょう。ゲームそのもののメカニズムもダメージに偏る要因になっていると思います。キルを決めると直感的なフィードバックがありますよね。キル・フィードが光って、誰々を倒したというメッセージが表示されて、気持ちのいい効果音が流れます。どれだけダメージをブロックしたか、あるいは適切なタイミングで治療して味方を窮地から救ったか、といったことに関しては、現状ではキルと同じようなフィードバックをゲーム内に組み込めていません。これは我々の責任です。ここについては、時間をかけて軌道修正しないといけないでしょうね。

とはいえ、タンクのロールにはたくさんの魅力があります。たとえばレッキング・ボールは、本作の中でもトップクラスのプレイスキルと創造性が求められるヒーローです。ラインハルトとシグマとオリーサを比べても、プレイスタイルには幅がありますよね。同じバリアを使うタンクであっても、実際のプレイは全く異なっています。みんな個性が立っていて、プレイしていて面白いです。ですが、タンク役に自信のあるプレイヤーがそう多くないのかもしれません。プレッシャーのかかるポジションですからね。まさしくチームの大黒柱です。

タンクを使うプレイヤーを増やすのも目標のひとつですか?

カプラン:そういうわけではありません。たとえばですが、私たちがアイスクリーム屋で、3種類のアイスを扱っているとします。チョコ、バニラ、ストロベリーとあって、お客さんにはそれぞれの味ごとに並んでもらわないといけない。このとき、チョコやストロベリーの列と比べて、バニラの列だけ明らかに長かったとします。そういう状況で、「どうすればバニラの人にストロベリーを好きになってもらえるだろう?」と考えるのは、何か違う気がするんです。それよりは、「バニラを増やそう!」と思うのが発想としては自然じゃないでしょうか。

わかりやすいたとえですね。

ハイバーグ[スマホ画面をスクロールしながら]: さっきはああ言ったけど、一番人気はやっぱりチョコかも。かけるソースによるらしい。

カプラン:まあどっちにしてもストロベリーではないと。ならストロベリーはタンクだね。

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