ハースストーン

Battle.net秘話:「ハースストーン」の音響デザインを支えるサウンドチーム

Battle.net秘話:「ハースストーン」の音響デザインを支えるサウンドチーム

隔月でひとつのスタジオを選んで、ゲーム開発を支える情熱あふれるメンバーに話を伺います。Battle.netの数多くのプレイヤーの皆さんのために、どのような過程を経て伝説と言われるようなエンターテイメント体験が作り出されるのか、その舞台裏をご覧ください。

軽快なギターの音、静かな会話のさざめき、そして旧友のように温かく迎えてくれる親し気な声。「ハースストーン」の酒場を訪れる者は、こうした一連の音で迎えられます。本作の才能ある音響スタッフが「こだわりと愛情をもって」制作したものだとプリンシパル・サウンドデザイナーのアンディ・ブロックは言います。

Zoomのギャラリー画面に映る、サウンドチームのたくさんの面々。その後ろには楽器や防音パネル、さまざまな「ハースストーン」テーマの背景も見えます。お互いに気楽に話す様子は、友人同士のおしゃべりのようです。「みんな、デザイナーとして補い合っています」とブロック。「お互いにどのように作業を進め、デザインに取り組くむかといった面で、とても息が合っています」

そうしたシナジーは、日々の仕事の拠りどころとなっています。チームメンバーはそれぞれに異なるパートを担当し、全体として「ハースストーン」ならではの音響的な個性を作り上げています。その個性は、新クラスを実装した「リッチキングの凱旋」や音楽をテーマにした「集え!レジェンド・フェス」という過去2回の拡張版を経て、飛躍的な成長を遂げました。 

今回はチームに最新作についてのほか、デザインプロセスでどのようなセッションを行うのか、またどんなおぞましい方法で理想的な呪文の音を作り上げたのかといった話を聞きました。



「ハースストーン」のサウンドチームに加わった経緯を教えてください。 

ブライアン・ファー(サウンドスーパーバイザー):私はもともと、いろんなロックバンドでフルタイムのプロとして演奏していました。その頃に、コンテンポラリーロックを中心とした音楽のレコーディングやプロデュースを始めました。でも、昔からビデオゲームが大好きだったんです。その後、QAテスター(ゲームの品質をチェックするテスト担当者)としてBlizzardに就職したのですが、その面接の際に、Blizzardにサウンド部門があることを知りました。QAとして働き始めてまもなく、オーディオディレクターのグレン・スタフォードに出会いました。そして、サウンドデザイナーのインターンとして働く機会を得たんです。数ヶ月後、グレンは私を正式に採用してくれました。それが22年前のことです。時が過ぎるのは本当に早いですね。

アンディ・ブロック(プリンシパル・サウンドデザイナー):私が作曲家として活動を始めたのは30年前、スーパーファミコンやメガドライブが大流行していた時代です。当時の作曲家は音楽、効果音、セリフ音声、実装と、音に関わることなら何でもやらなくてはなりませんでした。数年間そういう仕事をした後にサウンドデザインに専念するようになり、現在に至ります。

2012年に、未発表のゲームのサウンドデザイナーを募集するBlizzardの求人を見かけました。当時、開発内容は極秘事項だったため、どんな作品かもわからずに応募しました。“ちょっと風変わりな、カジュアルテイストのゲーム”としか教えてくれませんでしたね。そして勤務初日に、後に「ハースストーン」となるゲームのアルファ版を見せてもらい、「素晴らしいゲームのようだけど、サウンドはまだまだ改善の余地があるな」と思ったんです。

ダン・ジョンソン(テクニカル・サウンドデザイナー):子供の頃はゲームデザイナーになりたかったので、そのための大学に進学したのですが、いざゲームデザインをやってみると自分にはまったく向いていないと気づきました。その大学で自分はサウンド面がすごく好きだということがわかり、専攻をオーディオに変えました。大学院卒業後は音響スタジオに就職し、スカイウォーカー・サウンドを経てこの会社に入りました。

ロザリー・コフスキー(オーディオプロデューサー):私は大学の芸術学部で演劇を専攻していて、その時にビデオゲームのナレーションの仕事を始めました。そして「マジック:ザ・ギャザリング」の吹き替えを担当した時に、QAの仕事をしないかと声をかけられたんです。

ソフトウェアをどうやってテストするかなんて知りませんでしたが、「教えるから大丈夫」と言われて。それが25年前のことです。そして友人からBlizzardがオーディオ部門で人材を募集していると聞いたとき、すぐに飛びつきました。役者を続けてもお金にならないしって(笑)

ジョン・グレイブス(シニアサウンドデザイナーII):私はもともとミュージシャンで、バンドをやっていたときに録音機材の使い方を学び、自力でアルバムを収録していました。音楽を続けるための副業としてBlizzardのQAチームに加わり、その時にブライアン・ファーと出会ったんです。その後、インターンシップの機会を得て、以来ずっとサウンド部門に身を置いています。Blizzardは20年、サウンド部門は15年目です。

オリビア・ローレッタ(ボイスデザイナー):私はサウンドデザインの学校に行き、その後、ニコロデオンでインターンシップをしたことがきっかけでレコーディングエンジニアになりました。ちょうどその頃ゲームで遊んでいて、テレビ業界からゲーム業界に移れないかと考えていたんです。この仕事の募集を見て応募しましたが、結果的に私にぴったりでした。


World of Warcraft」のスピンオフ作品として誕生した当初からBlizzardで「ハースストーン」に携わっている方もいますが、すでにあった「WoW」のサウンドをどのように活用されたのでしょうか?新しいサウンドを「WoW」のものと似せながらも特徴あるものにするため、音としての個性をどのように差別化しましたか?

ファー:私がサウンドデザイナーとして最初に手掛けたプロジェクトは「Warcraft III」で、才能ある作曲家やサウンドデザイナーの方々にご指導をいただけたのはとても運が良かったです。2000年初期にゲーム業界で働いていた作曲家は複数の役割を担い、多くのサウンドデザインも手掛けていて、そのとき「Warcraft」の多くの呪文の効果音には、無調音楽の要素が含まれていることに気づきました。それがとても特徴的な音を作り上げていたのです。

「World of Warcraft」に移ってしばらくして、リードサウンドデザイナーになりました。「WoW」でも「ハースストーン」でも、今日耳にする呪文の音は同様のデザイン手法を引き継いでいます。ですが、「ハースストーン」は遊び心ある作品のため、より軽快な音になっています。

ブロック:当初は「聖なる光」の呪文、「挑発」のキーワード、ミニオンの「マーロックの偵察兵」など、「WoW」と同じか、似ているカードのサウンドをより高音質でステレオリマスターする方向で進めていました。後に「ハースストーン」独自のスタイルに変化していきましたが、今でも機会があれば「WoW」のサウンドを参考にするようにしています。「WoW」の伝説的なキャラクターを「ハースストーン」で登場させる際に、往年の「WoW」での音楽を効果音として採用しているのがいい例です。 

「ハースストーン」のサウンドデザインが「WoW」と大きく異なるのは、テンポの面でよりリズミカルで音楽的なアプローチをしている点です。ターンベースのゲームで、カードを手札から引いて使用するなど、タイミングに固定的な要素が多いため、ゲームプレイのテンポに合った、心地よいサウンドを作ることができるのです。


サウンドデザインの工程そのものについてはいかがでしょうか?「ハースストーン」が「WoW」と特に異なる点はありますか?

ファー:このチームに加わってミニオン、主に獣タイプの効果音を担当しましたが、音響デザインでこれほどの自由度は経験したことがありませんでした。それまでは、攻撃するとか、ミニオンが負傷したなど、アニメーションの状況に紐づけされた音を作るのが当たり前でした。「ハースストーン」では、カードアートを元に音を作れるというクリエイティブな自由さがあります。

ブロック:これは「主観的サウンドデザイン」と呼ばれ、キャラクターの実際の動作の物理的側面に捉われないデザイン手法です。「このカードを出すことでどんな感情が湧きあがるだろう?」そういった面をより重視します。呪文などには、かける時やかかった時にキーとなる音があります。それらに合わせて、感情を豊かに表現する自由があるのです。


新しいクラスが加わると、大量のカードが新たに追加されます。先ほどのお話のように、それぞれのカードで何が起きているかわかるようにする必要がありますよね。「リッチキングの凱旋」でデスナイトが追加されることになったとき、サウンドデザインはどのように進めたのですか?

ファー:デスナイトの凍気呪文にはドライアイスを使って金属の音を響かせました。ドライアイスの上に金属を置くと、ものすごい音が出るんです。鎖はシャーッというような、金属板は呻くような音をたて、魔法的な環境音を作るには最適です。ドライアイスが鳴らす金属音は、不快な感じと輝かしい感じのどちらでも表せます。 

グレイブス:私はもともと「WoW」にいて、ある拡張版で戦闘のリニューアルがあり、全クラスの効果音を新しく作り直していました。当時の音源をたくさん持っていましたし、ブライアンが「Wrath of the Lich King」のために作ったデスナイトのオリジナルの音を私たちが作った新たな音源と組み合わせたいと思ったのです。何度かセッションをして、かなりグロテスクな音をいろいろ録りましたね。

そのグロテスクな音はどうやって録音を?

グレイブス:試行錯誤の連続でした。店に行って片っ端から売り場を歩いて、潰れた音が出そうなものを手あたり次第に探しました。また、前に効果音に使った物でスタジオ全体を臭くしてしまったことがあったので、臭いにも気を遣いました。なかなかおぞましい方法を試しましたよ。

潰れる物を買うためだけに40、50ドルも使いました。それから自分の子供が使っていたミニプールを持ってきて、レコーディングスタジオにたくさんの防水シートを敷いて、ひたすら物を切ったり刺したりしました。

ある時、何かを混ぜ合わせようとしたときにしゅわしゅわした音が欲しいと思ったので、何も考えずにソーダを注いだんです。その時、中に生クリームが入っていたので全部凝固してしまいました。急いでそれを録音しようとした時に、「待てよ、ここにトイレのラバーカップを使えばいい音が出るのでは?」と思いついて、ラバーカップを持ってきました。とっさの閃きでしたが、スタジオが臭いでいっぱいになる前にできるだけ早く録音を済ませました。

ファー:とてもリアルで、いい音に仕上がりました。サウンドの何が素晴らしいって、視覚エフェクトのチームが「ああ、この映像はグロすぎるから使えないな」と言う場面でも、こっちは音でグロさを表現できる点です。とんでもない方法を使って、好きなだけ気持ち悪い音を作れるんですから。

Graves in the process of recording a gore kit.


開発中や拡張版のリリース後に、特に印象に残った出来事はありますか?

ブロック:開発全体で言えば、ゲーム盤の隅に隠し要素を入れるのはいつも楽しいですね。こうした隠し要素はよくあって、例えば「リッチキングの凱旋」の盤面で右上の氷を全部クリックして壊すと、特別な何かが見えたり聞こえたりするようになっています。ネットでプレイヤーの皆さんの反応を見るのがいつも楽しみです。

あまりに上手く隠しすぎて、長い間見つけてもらえないこともあります。例えば「灰に舞う降魔の狩人」の盤面では、2つの隠し要素が最近になってようやく見つかりました。盤面の決まった部分を決まった順番でクリックすると、左下のフェル・リーヴァーと右上のダークポータルの秘密のシーケンスが発生します。  

ジョンソン:「ブライトファング」というミニオンの音を作るのには特に苦労しました。巨大なクモなので録音のしようがないんです。結局、サウンドライブラリから「エイリアンの鳴き声」を引っ張り出して、EQ(イコライザー:音源の特定の周波数の音量を調整する機能)とトレモロ(音量を小刻みに上下させて揺れている音を出すエフェクト)を使って、背後で口の牙がカチカチ鳴っているように聞こえる音を作りました。それにさらに高音のシャーッという音に迫力を追加したものを入れ、牙の音にグロさを演出する音を加えて仕上げました。なかなかいい感じに仕上がったと思います。

コフスキー:Redditを読むのが何より楽しいです。皆さんの素敵な感想をいろいろ読むだけで…すごくやりがいを感じます。

昔からのファンの方もいて、素晴らしい人たちばかりです。

ローレッタ:みんなが言うように、私たちのゲームはスピード感があり、わかりやすさも必要です。なので私が印象に残っているのは、壮大さやインパクトを保ちながら、プレイヤーの皆さんに何が起きているかがはっきり伝わるよう、チームのみんなで工夫して作業したことです。

コフスキー:オリビア(ローレッタ)の何の音を組み合わせるかの話を聞いていると、「じゃあ、オウムを飼ってるバンシーとデスナイトにしよう」なんて言ったりするんです。ユニークな音を作ろうとして彼女が思いつく組み合わせには、いつも驚かされます。

ローレッタ:でも、すごく楽しいんですよ。そういう変化球が来ると、いつもワクワクします。

 
 
 
 


そうした変化球やその他の点でも、皆さんのお仕事やサウンドデザインというプロセスについて、毎日これがあるから楽しく仕事ができるというものはありますか?

コフスキー:みんなが作った音を聞くこと。あと、娘が遊んでくれているのを見るのは幸せですね。このお茶目でかわいいゲームに、開発のみんながどれだけの思いを注いできたか聞くだけで感動します。

ブロック:常に新しく挑戦できるものがあることかな。最新の拡張版「集え!レジェンド・フェス」は音楽がテーマで、私たちにとってはまさに変化球でした。既存の酒場の音と重ねてもめちゃくちゃにならないように、音楽的要素のある効果音を作るのは大変でした。ゲーム中に音が多すぎるという場合もありますし、何がいつ聞こえるべきか、あるいは完全に省かれるべきかという判断を適切に行うことが大切です。

全体的に「ハースストーン」の制作はとても楽しいです。可愛らしい小さなロボットの音を作っていたかと思えば、次は巨大なミニオンだったりします。その時に何を扱うかでまったく違う面の感情を揺さぶられることになりますし、しかも拡張版のテーマは4ヶ月ごとに変わるんです! 

ローレッタ:みんなで協力して作り上げる感じが大好きです。多くの場合、私はライターからアイデアをもらいながら、ブライアンが作り出した素晴らしい世界に忠実であろうと努めます。そうした枠の中で、誰かのアイデアを世界観に合う形で実現させていくことがとても楽しいです。

ファー:映画でもゲームでも本でも、昔からファンタジーというジャンルが大好きだったので、毎日好きなことをできているなんて信じられません。たくさんの才能豊かな人たちと一緒に仕事ができることも幸運だと思います。いつも刺激を受けています。

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