オーバーウォッチ2

ディレクターの視点:ソンブラのリワーク、デザイナーの挑戦

Blizzard Entertainment

皆さん、こんにちは!今週はアーロンに代わって、ヒーローデザインチームのアンドレ・アブラアハミアンが「ディレクターの視点」をお送りします。今回は、悪名高き隠密のハッカーであるソンブラに加えた最新の変更点について、深く掘り下げていきたいと思います。2016年に登場して以来、「オーバーウォッチ 2」のローンチ時のリワークを含む数多くの変更が加えられてきたソンブラに、私たちチームは再び新たな変更を加えることにしました。

私たちがオーバーウォッチの各ヒーローについて検討する際に指針としているのは「素晴らしいヒーロー体験を提供する」という普遍的な価値観です。各ヒーローが及ぼすマッチへの影響を、プレイヤー、チームメイト、そして相手のチームへ明確に提示することが重要です。影響が明確でなければ、対戦相手はヒーローやそのアビリティに応じた対策を練ることができません。この点を考慮すると、長期的な視点から見てソンブラに修正の余地があると感じられたため、今回のリワークを実施するに至りました。

目標の設定

ソンブラのリワークを行うにあたって、まず目標を明確にすることをデザイン変更の指針としました。設定した目標は次のとおりです。

  • 敵との遭遇時に、ソンブラをもっと積極的に戦闘に参加させる 
  • ソンブラのアビリティに、より能動的なプレイ要素を加える 
  • 現在のハッカーとしての個性やプレイスタイルは維持する 

これらの目標をもとに、ソンブラのアビリティをさまざまな角度から検討していきました。もちろん、ソンブラと対峙する相手のイライラを緩和すること、そして相手チームに適切な対抗手段を残すことも、考案したアイデアの大半で考慮されました。

「トランズロケーター」は、マップを移動したり、危険な状況から逃げたりする際にとても便利なアビリティです。一方で、敵が強烈な一撃を加えようとした際に素早くその場を離れられるため「困った時に使えばとりあえず何とかなる万能の切り札」的なアビリティだとしばしば指摘されています。「オーバーウォッチ」シリーズはハイテンポなゲームプレイを特徴としているため、トランズロケーターを破壊するというのは、対策としてあまり一般的でありません。特に「オーバーウォッチ 2」になってからは、スタンできる機会が全体的に低くなっているため、ソンブラの捕らえづらさに拍車がかかっています。トランズロケーターをライフ・パック周辺などの安全な場所に置いておいて、単独で敵と交戦してはテレポートで撤退する戦術も、ソンブラを使用するプレイヤーの間でよく用いられてきました。もちろん、一匹狼として行動することを一概に否定するわけではありませんが、やはり近くの味方と連携することで活躍するという体験は大事にしたいと考えています。なので、トランズロケーターのこうした側面にメスを入れることで、ソンブラをバトルの中心に組み込めればと考えました。

姿が見えなくなる「ステルス」も、ソンブラを代表する強力でユニークなアビリティです。姿を消す能力を適切に調整するというのは、マルチプレイの対戦ゲームにおいて難しいものです。ステルスを使いながらハックを行える点、クールダウンさえ済んでいればいつでも自由にステルスを発動できる点、そしてステルスの持続時間が無限である点など、ステルスの利便性についてはチームの間でも議論を重ねてきました。こうした懸念点にも対処することで、今回の調整がどのような結果につながるかをチームとしても確認したかったのです。

「ハック」はソンブラが持つアドバンテージの中でも特に強力な部類に入るため、「オーバーウォッチ」シリーズを通じて数多くの変更が加えられてきました。今回の調整は新しいアイデアを試してその効果を確認するための絶好の機会となるため、私たちチームでもこのアビリティについて長い間議論を重ねてきました。リワークを通じて様々なバージョンのハックを試しましたが、一番議論の的となったのは、ステルス発動中のハックの使用についてでした。そこで、ハックへの新たなデバフの可能性を探り、検討を進めました。

先ほど紹介したアビリティの側面に基づいて、ソンブラを使用するプレイヤーとそれ以外のプレイヤーの両方のゲームプレイが最適になるよう、さまざまな変更内容の組み合わせを試しました。単にソンブラを弱体化するような変更は避けて、むしろ、ソンブラを今まで以上にカウンタープレイ向きのヒーローにし、より積極的にプレイできるヒーローに変えたいと考えたのです。そのため、何度もプレイテストを行い、そのフィードバックに基づいて更なる調整を加え、満足のできる最適なソンブラのリワークを模索しました。

変更案とフィードバック

新デザインのアイデアを得るために、まずは各種アビリティに大幅な変更を加えてみました。

たとえばハックの場合、アビリティの使用機会を奪わない代わりに、相手がアビリティを使用する際にダメージを与える、といったアイデアが初期に考案されました。しかし、これだとダメージを受けている理由が敵にとって理解しづらく、敵のプレイヤーがどう反応するかでアビリティの有効性が大きく変わってしまうため、最終的に没となりました。ほかの案としては、ハック中に相手の攻撃力が減る、というものもありました。しかしこの案は、攻撃力の減少幅が小さければ効果が分かりづらく、逆に大きければハックされた側のストレスが増える点がネックでした。ほかにもハックへの変更はいくつか考案されましたが、どれも効果が分かりづらいか敵への影響が少なく、結局没となりました。最終的にハックのデバフは、敵にハックするとステルスが解除される仕様に変更する形で落ち着きました。ソンブラが敵とより積極的に戦うようになり、相手チームにもソンブラへ対応する機会が確保されるため、この変更は上手くいったと思っています。

トランズロケーターもステルスと同様に、ソンブラの移動・逃走手段だったため、こちらにもいくつか変更を加えました。初期に検討したのが、トランズロケーターの持続時間を短縮して戦闘中の使用を促すというアイデアです。持続時間が短くなっても、プレイヤーがトランズロケーターを前もって安全な場所に設置しようとする傾向にあることがすぐに判明しましたが、この変更がソンブラを、他の変更でも念頭に置いている「チームの協力」により見合ったプレイスタイルへと近づけることも分かりました。ステルスの場合、きわめて短い間に解除不可能な透明状態になって瞬発的に移動できるという、ダッシュ系のアビリティに変更することが初期に検討されました。戦闘中に一瞬透明になるというプレイスタイルは興味深い点もありましたが、敵のプレイヤーからすれば対抗策がないので不満が募ります。また、ソンブラのプレイヤーもより持続時間を長くして敵の裏を突くようなプレイを望むということが分かりました。

最終的に、トランズロケーターを高速テレポートに特化したアビリティとして、ステルスをパッシブのアビリティとして変更し、ソンブラに戦闘中により素早く動く能力を与えつつ、敵がソンブラに対抗する機会も確保しました。「ステルス」をパッシブに変更するにあたり、これまでのパッシブ「オポチュニスト」を話し合いの末、削除することにしました。オポチュニストは、敵の位置を自動的に表示し、銃弾が当たった際にボーナスダメージを与えるパッシブですが、私たちはオポチュニストのこうした要素を、もっと明快なものに変えたかったのです。テレポートとステルスをより戦闘に特化させた後で、私たちが検討したのは生存能力と攻撃力のバランスです。不足している攻撃力を補うため、新たなダメージ系アビリティを模索しました。

新たなアビリティの探求

移動能力と生存能力は満足できる状態になったので、次に私たちは新しい攻撃手段を検討しました。サイバネティクス装置からデジタル・マルウェアまで、参考にしたアイデアはさまざまです。

初期に考案されたアイデアのうち、特に検討を重ねたのがレーザー・ワイヤー・トラップです。ソンブラのデザイン初期段階でも考案されていたこのアイデアは、敵が近づくと自動的に発動するトラップを壁に設置して、ダメージと速度低下効果を与えるというものでした。しかしプレイテストの結果、トラップの準備に時間がかかりすぎて戦闘中ほとんど役に立たないことが判明し、このアイデアは没になりました。

他にも、扇状にダメージを与え、ライフが低い敵に追加でダメージを与える「サイバネティック・ワイヤー」というアイデアがありました。いわゆる「とどめの一撃」として使うことを想定したアビリティです。ただしこのアイデアには、複数の敵に一度で与えることができるダメージ量が大きくて制圧力が高すぎるきらいがある、マシン・ピストルを使いながら主観で物理的な有効範囲を把握するのが難しい、などの問題点がありました。とはいえ、このアイデアには興奮させられるものがあったことも確かです。そこで、私たちはスキルショット系のアビリティを検討することにしました。

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最終的に、継続ダメージを与える投射物という形で、「ウイルス」という名のアビリティが誕生しました。「ウイルス」は遠隔型のプレイスタイルと相性がよく、継続ダメージの効果があるので、相手がダメージに対処する時間もさらに増えます。しかし、このダメージ系アビリティがあることで、非ステルス状態から敵をハックする意欲をプレイヤーから奪うことも判明したので、私たちはハックした相手に「ウイルス」が当たった際のボーナス効果を検討しました。ボーナス効果のアイデアとしては、ハックした敵にヒットするとクールダウンが減少するというものや、付近にいるターゲットにダメージを分散させるというものがありました。しかしこれらは、どちらも敵プレイヤーにとって効果がわかりづらいように感じられました。結局採用されたアイデアは、ハックしたターゲットに対して継続ダメージをより早く与える、というものでした。このアイデアであれば、効果に気づいて対処する時間を敵に十分与えることができるため、ゲームバランスの面でも優れています。

リワークの方向性に満足した後は、意見をさらに募り、数値バランスを微調整するため、チーム全体で何度もプレイテストを行ないました。こうしたプレイテストの積み重ねは、トランズロケーターによるステルスのクールダウン短縮など、ソンブラの生存能力を向上させる手直しを加える上で役に立ちました。

まとめると、今回のリワークの内容は以下のとおりです。(1)交戦機会を増やし、ソンブラの追跡が容易になるよう、「トランズロケーター」の仕様を瞬時にテレポートするものに変更。(2)逃走しようとするソンブラに対処できる時間を相手に確保させるため、「ステルス」をパッシブに変更。(3)ソンブラの攻撃力を高める目的で、新アビリティ「ウイルス」を採用。これらの変更がシーズン7で実装されます。

ソンブラ

マシン・ピストル

  • ダメージ量が7.5から8に増加
  • 最小拡散率が0.5から0に減少
  • 拡散率が最大に達するまでのショット数が3発から6発に増加
  • リロード時間が1.4秒から1.2秒に短縮

ハック

  • 発動にかかる時間が0.75秒から0.65秒に短縮
  • 発動時に「ステルス」がキャンセルされる仕様へと変更
  • クールダウンが4秒から6秒に増加
  • 「ハック」が中断された場合、またはヒーロー以外の対象をハックした場合、「ハック」のクールダウンが3秒短縮
  • ハッキングによるデバフが有効な間表示されていた「HACKED」の警告が、沈黙中のみ表示されるように変更

オポチュニスト

  • 削除

ステルス

  • パッシブ・アビリティに変更。3.5秒間、射撃とダメージ系のアビリティの発動を行わず、ダメージも受けないままでいると、自動的にステルス状態へ移行します
  • ステルス発動中に得られる移動速度のボーナスが60%から45%に減少
  • ステルス状態へ完全に移行するまでの時間が0.375秒から0.25秒に短縮
  • ステルス状態からの復帰時間が0.5秒から0.375秒に短縮
  • ライフ・パックのハッキング時にソンブラのプレイヤーに表示されるUIメッセージを「REVEALED」から「DETECTED」に変更。「DETECTED」のメッセージは、敵プレイヤーが探知範囲内にいる場合にのみ表示されます

ウイルス

  • 新アビリティ。デフォルトではアビリティ1に割り当てられます
  • 投射物を撃ち込んで敵に継続ダメージを与えます。ハックした敵には、より素早く継続ダメージを与えることができます
  • 直撃ダメージ:10(ハックしたターゲットには20)
  • 継続ダメージ:4秒間に100(ハックしたターゲットには2秒で100)

トランズロケーター

  • 手動でテレポートできる仕様を変更。トランズロケーターを投げてから0.25秒後、または投げたトランズロケーターがオブジェクトに当たると、自動的にテレポートします
  • テレポートすると、「ステルス」のクールダウンが短くなります
  • 弾速が25から72に増加
  • クールダウンが6秒から5秒に短縮。トランズロケーターの位置にテレポートした時点でクールダウンが開始します
  • 投擲初期段階の垂直オフセットを削除

EMP

  • アルティメットのチャージ・コストが15%増加
  • ライフのパーセント・ダメージが40%から30%に減少
 

今後に向けて

リワークの開発プロセスと、ソンブラのアビリティ変更に関する私たちの意図を、今回の記事を通じてより深く理解していただけたら幸いです。今回の見直しは、ソンブラをよりエキサイティングなヒーローにし、対戦相手にとってもフラストレーションの少ない敵にするためのものです。私たちも、この変更でソンブラのプレイスタイルが新しくなるだけでなく、より明確なゲームプレイを実現できると考えています。今後もソンブラのパフォーマンスに注目し、適宜バランス調整を行っていきます。オーバーウォッチの他のヒーローたちと同じく、ソンブラも私たちにとって非常に大切な存在です。引き続き、皆さんからの貴重なフィードバックをお待ちしています。

お読みいただきありがとうございました!

ピッ!