「オーバーウォッチ 2」開発者ブログ:ヒーローデザインの変遷
PvPベータテスト終了後から「オーバーウォッチ」チームは数名のヒーローについてアイデアを出し合い実験を繰り返してきました。現在その作業が行われているヒーローのヒントはこちらです:
人の優劣は腕力ではなく、発想力で決まる。
チームはモイラについて色々新しいアイデアをあたためていて、彼女が将来ゲームでどういう形で活躍するかを検討しています。
アソシエイトヒーローデザイナーのアレックス・クォク率いるヒーロー調整およびデザインチームが「オーバーウォッチ 2」に向けてモイラの最適な調整方法を探っています。彼女は優秀なサポートヒーローであり…GOATSのようなメタでは優秀すぎることもありました。一方で彼女に足りないものは、他のサポートヒーローたちが持っている、決定力のあるアビリティや機能性です。そこで彼女のプレイ感を改善すべく、深みを出すための変更を考えています。この目標に向けた過程を通して、皆さんにヒーローデザインをどのように観念化し繰り返し調整するかをご紹介したいと思います。
ヒーローのバランス調整とデザインの試行錯誤
モイラの調整にあたっては2つの目標があります。まず彼女の有用性を高めること、そしてゲームの流れを変えるプレイができるようにすることです。デザインのプロセスは多面的で、ときには衝動的です。新しい案はヒーロー調整とデザインチーム全体に共有され、彼らは協力してコンセプトを繰り返し試行錯誤して最適なものを探します。案の一部は内部プレイテストに進みますが、そこまで行かずに振り出しに戻るものもあります。
案が最初の内部プレイテストを通過した場合、「オーバーウォッチ」開発チーム全体のリーダーたちに共有され、アビリティ化のプロセスが始まります。アビリティが形になって洗練されたあと、Team 4全員および広範囲のサポートチームが参加できる、より大人数による内部プレイテストが行われ、フィードバックを受けます。この最終テストを通過したアビリティだけがプレイヤーの目に触れることになります。
以下に挙げるモイラのアビリティはまだ試行錯誤の初期段階にあります。つまり、ヒーローバランスと調整チーム以外にはテストされていません。
試行錯誤1:「ペイン・コンバーター」
チームが最初に考えついた変更のひとつは「ペイン・コンバーター」と呼ばれるものです。これはダメージ軽減アビリティで、味方に使用すると緩和されたダメージがモイラのライフを回復するというものでした。「ペイン・コンバーター」で味方の受けるダメージを軽減しつつ、同時に「バイオティック・グラスプ」で回復し、ターゲットの生存力を大幅に高めることが可能です。
しかしこのバージョンにはいくつかの問題点がありました。まず、「ペイン・コンバーター」はチームメイトの死を防ぐバティストの「イモータリティ・フィールド」など、既存のアビリティに類似しています。次に、集中攻撃を受けている味方よりもタンクに使用することで最も効果を発揮するため、使用状況が限られています。その上、モイラのアビリティはすでにバランスがよく、別のアビリティを追加するような隙がなかったのです。
「『ペイン・コンバーター』をリロードキーに紐づけてみましたが、武器をリロードしているわけではないので使用感が微妙でした」とクォク。「また、ごく短期間ですがメイン攻撃とサブ攻撃同時入力で発動できたバージョンもありました。しかしこれは操作性に問題がありました。モイラはメイン攻撃とサブ攻撃を頻繁に切り替えますので、間違えて発動してしまうことが多かったんです」
試行錯誤2:「パージ」、「ナリファイ」
次の2つのアビリティ「パージ」と「ナリファイ」は、元々「バイオティック・オーブ - ダメージ」に紐付けられていた別のアビリティでした。「パージ」は「World of Warcraft」のクラス「シャーマン」に大きな影響を受けており、敵のバフを解除するアビリティです。
「こういったアビリティはモイラの性格とも相性がよいため、私たちはどういったバフを解除できるようにするかを検討し始めました。『パージ』でアナの『ナノ・ブースト』やソルジャー76の『スプリント』を解除できるようにしようと考えたのですが、他に解除できるバフの選定には悩まされました。例えば、『龍撃剣』の発動中ゲンジは少しスピードアップしますが、これを『パージ』で解除できるかどうかが直感的にわからないのです」こうして「パージ」でどのようなアビリティが解除できるかがわかりにくいという問題が判明し、アビリティはお蔵入りとなりました。そのコンセプトを引き継いで作られたのが「ナリファイ」です。
「ナリファイ」は「パージ」の効果の範囲を絞り込み始めたときに生まれました。「ナリファイ」は、ダメージ軽減、ダメージブースト、移動速度バフを打ち消します。例えば「ナノ・ブースト」の効果なら、数秒間抑制できます。クォクは「チーム内で『ナリファイ』でどのタイプのアビリティを抑制できるかという意見を一致させるという目標がありました」と振り返ります。
チームが「ナリファイ」を奥行きのあるアビリティにするために試したことのひとつは、オーブをその場で停止させ、味方や敵に効果のある回復エリアまたは無効化エリアを作り出せるようにすることでした。他のバージョンでは、「ナリファイ」が追加ライフに与えるダメージが多くなっていました。つまりルシオが「ナリファイ」の範囲内で「サウンド・バリア」を使うと、シールドがあっという間に破れるというわけです。このバージョンは取ってつけたような感じがする上にわかりにくいという意見があり、追加ライフへのダメージは削除されました。
こういった試行錯誤を経てもなお「ナリファイ」がマッチでどういう効果を発揮するのかはわかりにくいままでした。ダメージブースト、ダメージ軽減、速度が上昇するバフを発動させていなければ、基本的にアビリティに気づけません。非常に直感的な「スリープ・ダーツ」などのアビリティと比べて、発動している実感がありませんでした。こういった事を考えているうちに3つめのアビリティ、「弱体化」が生まれます。
試行錯誤3:「弱体化」
現在チームが検討を進めているバージョンが「弱体化」です。このアビリティはリロードを1度押すとチャージが始まり、モイラの手にエネルギーが溜まっていきます。チャージを終えるとモイラは遠距離攻撃を放ち、相手のダメージと回復量を大幅に低下させます。遠距離攻撃はすぐに放ってもいいですし、メイン攻撃とサブ攻撃が同時に使用できなくなる代わりに持ったままでいることもできます。
「今はアナの『スリープ・ダーツ』のような小型の投射物にしようと考えています」とクォク。「タイミングの判断、アルティメットの管理、射撃の精度などが要求されるアビリティは、勝負の決め手となると同時に、相手にしていてフェアに感じられるものに仕上げる猶予が大きいのです」スキルが問われる攻撃は全体的にカウンターの余地があるため、ゲーム内で強力なアビリティにできます。「オーバーウォッチ 2」では多くのクラウドコントロール系アビリティがなくなりますが、「スリープ・ダーツ」は効果的に使用するのに技術がいるためチームとしては気に入っています。
チーム内でモイラのサブ攻撃にパッシブ効果をつける案を検討したこともありましたが、ダメージビームの使用可能時間が長いため全体的な効果を下げなければならないことがわかりました。「弱体化」はそこまで長時間使用できるわけではないので、ゲームの流れを変えるアビリティにするだけの余地があります。簡単に当てられるわけではありませんし、モイラが効果的に「弱体化」を運用するにはタイミング、位置取り、使用する方向を考えなければなりません。
このバージョンはまだチーム内でテストしている最中ですのでゲームに実装されるかはわかりませんが、今のところは前途有望です。
「オーバーウォッチ」の新時代をデザインする
使用されなかった案や試行した内容は、必ずしも破棄されるわけではなく、後に実装されるヒーローに引き継がれることもあります。「オーバーウォッチ」のローンチ後に初めて実装されたヒーロー、アナがこのいい例です。彼女の開発時のコードネームは「アルケミスト」で、チームメイトにポーションを投げ、回復するためのグレネードランチャーを持っていました。アルケミストをアナというキャラクターにすると決めたあと、ストーリーに合わせてポーションは「バイオティック・グレネード」に、武器は回復するライフルに変わっていきました。アルケミストが元々持っていた武器は、後にバティストの「バイオティック・ランチャー」として登場します。
今回ご紹介したアイデアは、皆さんに私たちの開発プロセスを紹介するだけでなく、将来モイラに行われるかもしれない調整の方向性のプレビューも兼ねています。こういった案は、バランスを度外視しモイラをより楽しくプレイできるヒーローにすることを唯一の目標としています。ヒーローのバランス調整は、完成したアビリティをすべて確認できるようになってから行います。バランスとデザインは相容れないものではありません。両者に影響する要素が複数存在し、共存できるものなのです。
この記事に掲載されたモイラの調整案は、ヒーローデザインと調整チーム内部で行われていることのごく一部です。この他にも、ロスター全体に様々な変更をするためのテストや検討が行われています!まだモイラの変更点も変更時期も具体的には決まっていませんが、コミュニティやゲームにとって必ずインパクトのあるものにすると自信を持っています。「オーバーウォッチ」のすべてのヒーローがそうであるように、モイラは私たちにとって大事なキャラクターです。彼女らしさを全面に出したキャラクター性とアビリティを作っていきたいと考えていますし、今後のモイラの変化を楽しみにしています!