オーバーウォッチ2

「オーバーウォッチ 2」PvPベータの分析:コミュニティからのフィードバックとデータに基づくゲームバランス調整

Blizzard Entertainment

ヒーローの皆さん、データ分析の時間です!データはゲームデザインにおいて貴重なリソースです。データ、プレイヤーのフィードバック、ユーザーリサーチ、社内での議論、そして単純に私たち自身がゲームをプレイすること、これらすべてがデザインの決定に影響を及ぼします。データは、俯瞰的な視野や詳細な視点を与えてくれるだけでなく、ゲーム全体の傾向を明らかにしてくれます。本日は、第1回「オーバーウォッチ 2」ベータから見えてきたことと、ゲームデザインの意思決定にデータがどのように用いられているかをご紹介します。

データとデザイン:ヒーローのパフォーマンスの分析

デザインチームは、最初のベータが始まるにあたって、いくつかの点に注目していました。コミュニティの皆さんは今回初めてソジョーンに触れ、ソンブラ、バスティオン、ドゥームフィスト、オリーサの大幅調整を体験しました。私たちはベータにおけるこれらのヒーローのパフォーマンスを把握し、性能が十分でなかったり、あまりにも強力すぎることがわかった場合は、迅速に変更することで対応したいと考えていました。

ヒーローのパフォーマンスを評価する際には、異なる競技レベルやスキルを総体的・部分的に分析することで、全プレイヤーの中で異なる実力を持つ層が、それぞれ現在のゲームの状態にどのように反応しているか把握します。トップクラスの実力を持つプレイヤーたちは、ゲームの限界に挑戦し、他のプレイヤーよりもはるかに早く最強のアビリティや戦略を発見します。一方で相対的に実力の低いプレイヤーは、特定のヒーローやプレイスタイルを学ぶのにより多くの時間を要します。そのため、ゲームのバランス調整を行う際は、すべてのプレイヤーの層を考慮することが必要です。プレイヤーのランクごとの分析もデータを扱う上では重要ですが、今回のブログ記事では全ランクを総計したデータを取り扱います。

関心の数値化:ヒーローの人気を評価するための指標

「パフォーマンス」の問題は多面的であり、私たちはパフォーマンスというプリズムをさまざまな角度から照らし出す、いくつかの異なる指標を持っています。最初の指標は、使用率です。これは、試合での全プレイ時間のうち、特定のヒーローがプレイされた割合を示す指標です。例えば、10分間の試合のうち、5分間だけソジョーンがプレイされた場合、使用率は50%となります。ソジョーンの使用率はベータ開始時には非常に高い割合でしたが、時間経過とともに徐々に低下していきました。

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ベータ期間中の全ヒーロー、全ランクにおける使用率の時間変化。ソジョーン、アナ、オリーサ、ソンブラ、バスティオン、ドゥームフィストをハイライトしています。

ソジョーンの使用率はピーク時で80%近くあり、ダメージヒーローとしては驚異的な数字です。アナもほぼ全期間を通して非常に高い使用率を保っていましたが、これはライブ版のゲームでも言えることです。また、大幅調整が行われたオリーサとドゥームフィストをはじめとするタンクも高い使用率を誇りました。

使用率は、プレイヤーの視点から見たゲームの絶対的な状態を計るのに最適な指標です。ソジョーンはベータ開始当初、最もプレイされたヒーローでした。初期の時点では実に全プレイ時間の半分以上で、両チームにソジョーンが採用されていたのです。しかし、使用率を見る際は他の文脈も考慮する必要があります。ソジョーンの使用率の高さはそれだけでも驚くべきものですが、選択肢としてあったダメージヒーローの数を考えれば、その割合の高さがより際立ちます。

ロールごとのヒーロー数の偏りを考慮に入れるため、私たちは「加重使用率」という別の指標も用います。加重使用率とは、ロールに属する全ヒーロー数に対して、あるヒーローが選ばれる比率です。具体的には、各ヒーローの単純な使用率を、そのヒーローの属するロールの平衡使用率(そのロール内の全ヒーローが均等にプレイされた場合の使用率)で割ることで加重使用率が得られます。したがって、最終的に用いる指標は、平衡率に対する使用率の比率となります。あらためてソジョーンを見てみると、ベータの初期段階では群を抜いて加重使用率が高いことがわかります。

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ベータ期間中の全ランクにおける加重使用率の時間変化。ソジョーン、アナ、オリーサ、ソンブラ、バスティオン、ドゥームフィストをハイライトしています。

加重使用率を使用することで、もともと人気のあったアナのようなヒーローと比較して、オリーサやドゥームフィストのような調整を加えられたヒーローが相対的に高い関心を集めていたことが視覚化されます。例えば、ソジョーンの加重使用率は最高で6倍を超え、これはダメージヒーロー全体の平衡使用率の6倍も多く使用されたことを意味します。オリーサとドゥームフィストは単純な使用率で見れば40%台止まりでしたが、加重使用率を見れば、サポートヒーローの中でのアナの人気に匹敵するほど高い関心をタンクの中で集めていたことがわかります。

ヒーローのバランス:データとフィードバックに基づく調整

チームがPvPベータの期間中に重視したのは、全ヒーローがプレイして楽しく、相手にして不快でないようにすることです。使用率の分析から、前者については順調に推移していることがわかったので、次なる目標はゲームバランスの調整でした。ヒーローのバランス調整はデータに基づいて、あるいはその他の方法で、多くの情報源から情報を集め、目的を持って決定されます。例えば、ベータで寄せられたサポートの生存力に関するフィードバックは、5月5日のバランスアップデートで行われたサポートへの調整に直接反映されました。

バランス変更の必要性を示す目安となるのは第一にプレイヤーのフィードバックですが、データに基づきバランス調整の判断を下すこともあります。そのようなヒーローのパフォーマンスを計る指標の一つが、マップ勝率です。ただし、「オーバーウォッチ」では試合の途中にヒーローを変更できるため、単純なマップ勝率ではヒーローの正確なパフォーマンスを計ることができません。例えばソジョーンで試合に勝利したとしても、そのマップ全体の半分の時間しかプレイしていなかったとしたら、マップ単位の勝率は計算できません。

しかしご心配なく、そうした状況も考慮して勝率を求める方法は存在します。より正確な指標を得るには、1つのマップでヒーローが使用された時間の割合から、小数点以下の勝率を求めます。上記の例に戻り、試合時間が全体で10分、ソジョーンをプレイした時間が5分だったとしましょう。ソジョーンは10分間のうち5分間プレイされたので加算される「勝利分数」は0.5となります。仮に試合に負けていたら逆に「敗北分数」が0.5となります。

これらの勝利分数を全体の勝率に換算するには、まず全試合におけるソジョーンの勝利分数を合計します。そして得られた勝利分数の合計を、勝利と敗北を足し合わせた数で割ります。この方法は、ヒーローの変更を考慮しつつ、パフォーマンスをより反映した勝率を得ることができます。

このメソッドの問題点は、ヒーローの使用率が上がるにつれ、勝率が50%に近づいていく点です。まさにこの現象が、ソジョーンが非常に強力で使用率も高かったアルファで起こりました。性能が非常に高いにも関わらず、両チームでソジョーンが採用されていたために、勝率は50%からほとんど変動しなかったのです。両チームにソジョーンがいる試合では、結局のところ片方のチームが勝ち、もう片方が負けるのは避けられないからです。

この問題を解決するため、私たちは特定のヒーローが片方のチームでしか採用されていない期間のみに限定して、勝利分数を求めました。これを「非対称」の状態と呼びます。非対称の勝率を採用することで、ソジョーンのように両チームに採用された試合の割合が過半数を超えるヒーローであっても、勝率が50%に収束することなく、相手チームに同じヒーローがいない際のパフォーマンスを計ることができます。 

勝率指標についての説明は以上です。それでは非対称の勝率の時間変化をご覧下さい。

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ベータ期間中の全ランクにおける非対称の勝率の時間変化。ソジョーン、オリーサ、ソンブラ、ドゥームフィスト、ソルジャー76、シンメトラをハイライトしています。

この図は、ベータ期間中の非対称の勝率を示しています。これを見れば、バランス調整を行う上で、データは多くの判断要素の一つに過ぎないことがおわかりいただけるでしょう。オリーサの順位の低さや、シンメトラが高い位置にいることに驚く方も多いと思います。こうした指標を分析に役立てるためには、データが得られた文脈をしっかりと理解することが大切です。

例えば、シンメトラを見てみましょう。シンメトラはベータでもライブ版でも常に最高レベルの勝率を誇ります。これは、シンメトラが採用されるのが、第1ポイントを防衛する場面など、彼女が活躍しやすいタイミングが多いためです。しかも、試合に負けそうなときは他のヒーローに変更する傾向もあるため、勝率がさらに押し上げられます。

ソジョーンやオリーサの勝率が大多数の予想よりも低いのも、同じ理屈で説明できます。ベータ期間中は多くのプレイヤーがこうしたヒーローに飛びつきましたが、誰もが新しいアビリティやプレイスタイルに不慣れだったと考えられます。そのため、劣勢に立たされ他のヒーローと交代したほうが有利な場面でも、これらのヒーローを使い続けたのです。わずか数時間しかプレイしたことのないソジョーンで、何百時間もの経験を積んだ敵のソルジャー76に対抗するのは、やはり無謀というものです。

このように、文脈とデータを踏まえてどのヒーローにバランス調整を加えるか判断するのはとても複雑なプロセスです。アルファ期間中のソジョーンの勝率は50%を上回っていたため、いくつかの下方修正を行いましたが、今度は50%を過剰に下回ることになり、一部の変更を巻き戻しました。オリーサは今のところ調整はありません。性能が不十分なのか、コミュニティの大部分が慣れていないだけなのか、まだ判断は保留しています。私たちの予想は後者です。仲間内に必ず1人はオリーサを上手く使いこなして敵を圧倒するプレイヤーがいたことでしょう。とはいえ、オリーサとドゥームフィストにはさらなる変更を検討中です。ソルジャー76にはコミュニティのフィードバックとデータの両方を取り入れたアップデートを行いました。また、ソルジャー76とソンブラについては、ヒーローが持つアビリティと、新たに導入されたロール・パッシブとの間で意図しないシナジーが発生していたため、移動速度を調整しました。5月5日のバランスパッチで行われた他の変更も、同様のプロセスを経ています。

刺激と反応:アップデート結果の評価

さあ、お楽しみの始まりです。ベータ開始時の目標に立ち返り、バランス調整の結果を評価したいと思います。今回観測された勝率の変化は、限られたベータ参加者による、ランクなしのゲームから得られたものであることを忘れてはいけませんが、バランス変更が顕著な効果をもたらしたかどうかを迅速に判断するには、非常に有効な手段であると言えます。ソルジャー76への変更は、勝率を低下させるのに十分だったのでしょうか?サポートの変更によって、ゼニヤッタのような勝率の低いヒーローは改善されたのでしょうか?勝率の表を数日分先に進め、まずはサポートの変化を見てみましょう。
 
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ベータ期間中の全ランクにおける非対称の勝率の時間変化。バランス調整を受けたサポートをハイライトしています。

全体を見ると、バランス調整を受けたサポート(マーシーの「ヴァルキリー」の不具合修正を含む)はいずれも非対称の勝率が即座に変化しました。例外はバティストで、彼には次のパッチでさらなる変更が加えられました。つまり、これらの変更はおおむね意図したとおりの効果を発揮したのです。中でも突出していたのがゼニヤッタで、勝率がおよそ5%も上昇しました。これまでの経験上、ヒーローのライフプールの変更は勝率に最も大きな影響を与えることがわかっており、これはまさに予想どおりの結果と言えます。今後もゼニヤッタの新しいパワーと「スナップ・キック」を注意深く観察していきたいと思います。次に、タンクを見てみましょう。

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ベータ期間中の全ランクにおける非対称の勝率の時間変化。バランス調整を受けたタンクをハイライトしています。

ロードホッグ以外のタンクは大きなバランス調整はなく、勝率の変化もそれを反映しています。ロードホッグとレッキング・ボールを新しい5v5の環境に適用させるための変更によって、勝率は1 - 2%上昇しました。最後に、ダメージヒーローです。

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ベータ期間中の全ランクにおける非対称の勝率の時間変化。バランス調整を受けたダメージヒーローをハイライトしています。

ソルジャー76は3つの変更を受けて勝率が6%も下落し、手痛いナーフとなりました。一方でソジョーンの勝率は42 - 43%から44 - 45%に持ち直しました。ソンブラの調整は、自身のアビリティとロール・パッシブとの相互作用を考慮した変更であり、勝率に大きな変化はありませんでした。

ゲームプレイの哲学:データとコミュニティのコラボレーションでゲームは作られる

変更、発見、分析、そしてまた変更というプロセスは、終わりのないバランスのサイクルです。主流の戦略が変われば、別のヒーローが次なるソルジャー76となり、頂点に立つでしょう。新たなヒーローを追加するたび、強力すぎたりパワー不足だったりすることがないように、予め調整を加える準備をしておく必要があります。私たちは、変更を行う際に、その変更が効果的であったか、あるいは効果が不十分であったかを常に検証しています。お気に入りのヒーローに変更が必要だと感じるにも関わらず、なかなか実現しないときは、「オーバーウォッチ」のバランス調整の裏で上記に挙げたような数々の指標が使用されていることを思い出し、変更のプロセスを信頼していただきたいと思います。バランス調整はマラソンであり、短距離走ではありません。今後も多くのヒーローが変更を待っています。それでは次回のベータでお会いしましょう!